2016年2月12日金曜日

家に帰るということ




こんにちは。古本屋「BOOKBOOKこんにちは」です。
朝夕は寒いですが、日差しは春めいてきたような気がします。暖かい。この街の梅もそろそろでしょうかね。

先日仕入れた本の中で「もう、家に帰ろう 2」という写真集がありました。写真家、藤代冥砂さんが撮る家族の写真集です。

私が藤代冥砂さんの写真を初めて見たのは、西葛西の図書館でした。
図書館通いは私の習慣で、どの町に移り住んでも住民登録を済ませた後すぐに図書館の貸し出しカードを作りに行きます。西葛西に住んでいた時期はヒッピーとかビートニクとかそういう本ばかり読んでいて、旅に出たいとか、島に行きたいとか、人生ってなんだ?とか、生きるってなんだ?とか、そういうことばかり考えながら会社員をしてました。
ある日、図書館の旅の本のコーナーで藤代冥砂さんの「ライドライドライド」を見つけます。パラパラと中を見て女の人の裸の写真だなと思ってから、ちょっと文を読んで、借りたような気がします。ずいぶん昔のことなので、もはや借りたかどうかは覚えていません。でも、いろんなアジアの国を旅して、その国の女の人を買って写真を撮る。そういう写真家の人だというインプットは西葛西の図書館でされました。この時、嫌悪感はありませんでした。これも一つの表現手段だとかそういう風に思ったからではなく、相手の女性ときちんと向き合っている感じがしたからです。

その後、私は国立の図書館で藤代冥砂さんの「もう、家に帰ろう」を手に取ります。初めてこの本を手に取ったときは、藤代冥砂さんの写真集だということより、モデルの田辺あゆみさんの写真だというところから入りました。全部見終わり、幸せそうだなぁと思って、表紙をもう一度見た時、「写真=藤代冥砂」という字面で「ライドライドライド」を思い出しました。向き合う相手が女性というところは変わってないけど、一晩を共にする女性たちから、たった一人の愛する女性へというものすごく大きな変化。あぁ、すごいなぁと思いました。私が行っていた国立の図書館は分室だったからか、そんなに広くなかったので、本の数も少なかったです。でも、この本があったからよく行きました。しつこいくらい借りては返し、借りては返しを繰り返していました。しばらく日本を離れることが決まっていたので、荷物を増やすことが出来なかったのです。天気が良い日にばかり行っていたのか、気持ちのよい光がいつも入っていた本棚の風景がこの写真集と一緒に思い出されます。とてもいい思い出です。

そして、今、自分の家で「もう、家に帰ろう 2」を読んでいます。出版されてすぐに一度目を通したとは思うのですが、それ以来5年ぶりに見ることになります。お察しの通り、「もう、家に帰ろう」の続編で、息子の龍之介くんのエコー写真から始まります。

5年前は、私はまだ東京で暮らしていました。ずっと暮らすつもりのない街で暮らすことは、なんとも宙ぶらりんで無責任なことだなぁと、今は思います。あの頃、私は寄り道をしているようなそんな感覚で東京にいた気がします。どこかに行きたいけど、それがどこだか分からないような、行くところは分かっているけど、すぐ行きたくないというような。そんな感じでした。でもある日、思い立って生まれ育った街へ戻ります。「もう、家に帰ろう」という心境だったかと聞かれると、全然そんなことはなかったです。

「ライドライドライド」では、母国を離れ知らない土地で、知らない女と寝てた男が、「もう、家に帰ろう」と愛する人に帰って行く。この「もう、」に、たどり着いた幸せがこの本全てから感じられます。「もう、家に帰ろう 2」は、そのたどり着いた場所から、更に幸せな場所へと歩んでいくその日々が写されています。幸せって限りないんだなって思います。
そして、写真にはそれぞれ一言二言の言葉が添えられています。
例えば、それはただの説明。場所と時。その時の状況。または、その時(か、その写真を見た時)思ったこと。その言葉の一つ一つが、写真に写る風景をぐっと夢の中のような幸せな風景にしています。言葉がなくても、そこに写っているのは幸せな風景なんですが、それが確かに、間違いなく、唯一無二の幸せなのだと、その言葉は私たちに分からせてくれます。写真はすごい。そして、言葉もすごい。そう思います。

さて、私の人生はまだまだ「ライドライドライド」あたりをうろうろしています。言わずもがな女も男も買ってませんが、もう帰ろうと思う場所はまだ見つかっていません。いつか、「もう、家に帰ろう」そう言って、愛する人へ帰る日がくるまで、私は今日も本を読みます。(本屋ですからね。)久しぶりに復活した図書館通いの習慣も私の読書欲を刺激してます。本の海を泳ぎ、今日もいろんな言葉の波に乗ります。そして、一日が終われば、今の自分の家へと帰ります。本当のところ、今も十分に幸せなのです。

0 件のコメント:

コメントを投稿